「脱のど声・脱のど発声」へ

前回は「声帯もどき」をアクティブに封じ込める方法について述べたが、ちょっと補足しておこう。

合唱をやっていると感じるのだが、おそらく日本のアマチュア合唱団の男声は9割以上の人がこの「声帯もどき」(披裂喉頭蓋ひだ)を声帯の上に張り出しながら歌っているように思う。要するに、のど声なのである。中には、自分では声帯をビンビン鳴り響かせているつもりの人も多いようだ。ところが、実際には声帯が「声帯もどき」でブロックされているので、クラシックの声楽としてはNGの声になってしまう。確かに、のど発声で歌えばのどにかなり強い振動が感じられるし、そうした心地よい手応えも手伝って、自分の耳には声が響いているように聞こえるので、ますます自分ではのど発声に自信を持ってしまうのかもしれない。しかし客観的に聞くと、その種の声はデメリットが大きく、場合によってはレッドカードものなのである。

日本人の英語学習者の大半がのどに頼った声で発音してしまうのも、多分これと同じ日本人的な習性のなせるわざだろう。とすれば、のど発声を捨てて、のどを意識しない発声(脱のど発声)を目指すべきだ。

のど発声というのは声帯の上に膜(声帯もどき・披裂喉頭蓋ひだ)を張り出し、声帯を半分以上覆い隠してしまう、かなり非効率的な発声法だと思う(前回・前々回を参照)。そうやって出す声は、実は自分で思っているほど張りがあるわけではない。自分のすぐ近くでは大きく聞こえても、少し離れると音のエネルギーが急激に減衰してしまう。要するに、声の通りがよくないのである。なぜなら、のど発声では声の振動の大半が「声帯もどき」の膜にまともにぶつかって、これを揺らすことにのみ精力が費やされてしまうからだ。そのため、自分の感覚ではのどがビンビン鳴り響いているように思えるのだが、それは局所的な振動に過ぎず、のどで声を出そうとすればするほど実際の声のエネルギーは失われていく。要するに、のど発声というのは声帯の上に膜をかぶせて弱音器を付けているようなものなのだ。

この「声帯もどき」をまったくしゃしゃり出させず、声帯の上が完全に吹き抜け状態になったままオープンに声を出せるようになると、共鳴が耳の後ろや後頭部で体感でき、響きもまったく異質でパワフルになるし、のどの振動は皆無になる。(これは、手っ取り早くのど発声かそうでないかを見きわめる目安となる。もしあなたが発声時に後頭部ではなくのどに大きな振動を感じているようなら、それはのど発声から脱却できていない証拠だ。その声は「のど声」と思ってまず間違いない。)

のど発声の最大の難点は、自分では声帯を振動させて声を大きく増幅しているつもりなのに、実際は「声帯もどき」に声のエネルギーを吸収させているに過ぎない、という点である。この悪の連鎖を断ち切るには、「自分が鳴らしているつもりだったのは実は声帯ではなく『声帯もどき』で、これは発音器官ではなく弱音器だ」という気づきが絶対に必要となる。一見すると自分の体感とはまったく矛盾するこの事実に気づかない限り、無理のない伸びやかな発声には決して到達できない。残念ながら、日本のアマチュア合唱団員の中にはこの悪の連鎖にとらわれたままの人がきわめて多いようだ。日本人の英語学習者もこれと同様で、のど声でしか英語を発音できない人が大半を占める。その原因は、日本語の一般的な発声に起因している、と僕は見ている。日本語のノリではっきり発音しようとすればするほど「声帯もどき」がのさばってきて、声帯を膜で覆ってしまうからだ。

だからこそ「声帯もどき」をアクティブに封じ込める工夫が必要なのだ。

ちょっと方法論的な話になるが、前回のように発声の仕組みについて仮説を立ててモデル化し、自分の体にそのモデルを投影して、実際の声をよりよくコントロールできるかどうかを検証する、というプロセスはきわめて重要だと思う。

たぶん僕たちはみんな、実際には何らかの発声モデルを頭に描いていて、無意識のうちにそれに従って声を出したり発音したりしているのだと思う。その固定観念化した発声モデルを、無意識のレベルから目覚めさせることができれば、よりよい発声モデルへと改良する方法も自然と見えてくるのではないだろうか。

僕が以前から引き合いに出している「カナ縛り」という概念は、日本人の間で固定観念化しているこの発声モデルへの気づきをうながすために僕が考案したものだ。自分の発声モデルがどれだけ既成の日本語発声モデルに強く支配されているかをしっかりと見きわめておかないと、そこから逃れてより伸びやかな声を得ることは難しいからだ。

英語の発音に適した発声モデルを追求するためには、同時に日本語的な発声モデルについても振り返って分析する必要がある。そして、両者の決定的な違いに迫るにつれて、よりオーセンティックな英語発音が得られるだけでなく、日本語の発音にもよい影響が及ぶに違いない。カナ縛りを脱却することができれば、のど声ではないのに明瞭で聞きやすく、しかも心をなごませるような日本語の発音を手に入れることもできるに違いない。

その意味で、上述した「声帯もどき」を引っ込めたまま封じ込める発声モデルは、「カナ縛り」発声モデルを無効化して、日本語の発音に革命的な変化を導く役割を果たす可能性が高い。英語発音を改善するために探り当てたこの新しい発声モデルは、実は日本語の発音をも進化させるポテンシャルを持っているのではないか、と僕は見ている。

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な お、このブログで公開しているメソッドは僕が苦心してたどりついた知的財産なので、無断借用はしないようお願いしたい(もちろん個人で発音改善などに利用 される分には大いに歓迎するが)。以前僕が別のブログで音読について綴ったことを黙って本に盗用した人がいて、遺憾に思ったのでひと言。また、紹介してい ただく際には必ずクレジットを入れることをお願いしたい。