thの発音を支える発声

thが基本単語に多く含まれる、という話は前にもしたが、中でも定冠詞theや、代名詞this, that, these, those, they(その活用形them)など、それなしでは英語が成り立たないというくらい頻出する単語に使われていることには、とっても深い意味があるんじゃないだろうか。

何世紀か前には、youのためぐちバージョンであるthou(その活用形thee)なんてのも頻繁に使われていたようだ(シェークスピアを読めばわかる)。代名詞だけでなく、thinkとかthingとかthereなんかにthが使われているのも象徴的だ。要するに、具体的な事象をアブストラクトな思考に置き換える場合に必要な道具が、thで固められている感じなのだ。うがった見方をするなら、英語で何か考えるにはまずthからスタートせざるを得ないよう仕組まれているのでは? と疑いたくなるほどである。

もちろんその裏には、英語を話す人たちがthの音をこよなく愛している、という事実があると推察されるし、そのことは英語の音全般にも影響を及ぼしているに違いない。だからこそ前にも説明したとおり、正しいthの音をとことん追求しないことには英語音声の真の姿に迫ることはできないのである。th発音のクオリティは、英語らしい音質かどうかを見分けるリトマス試験紙のような役目を果たす、といっても過言ではない。

ところが従来の指導は、thの発音について通り一遍の説明を最初にするだけで、「ほんとうにそれでよいのか? もっといいアプローチや別のとらえ方はないのか?」という大事な掘り下げが、指導する側に欠けていたように思えてならない。日本人のth発音の現状を建設的に批判し改善しようとする試みが、今までどれほどなされてきただろうか? むしろ、thの重要さにまったく目を向けず、ただ発音しにくいやっかいな音だとばかりに、いい加減にスルーしてきた人が教える側にも教わる側にも多かったのではないかと思う。せっかく自分の英語発音を磨く最高の手がかりが日本人の目の前にぶら下がっていたのに、僕たちはずっとそこから目をそむけてきたのだ。これは自分たちの甘えや怠慢以外の何ものでもない、と自戒の意味も込めて思う。

いちばん欠けていたのは、th発音の実践面での研究だろう。もちろん発音の仕組みは理論上は解明されているだろうが、それを誰でも効果的に実現できるようにするテクニックが十分に発達してこなかったのである。

これは一つには、英語的な発声と日本語的なカナ縛り発声(のど声)との違いが十分に解明されていなかった、という事情もある。こうした発声の違いをつかめない人が多かったために、「日本人が英語の発音をうまくできないのは当たり前」、という半ばあきらめに近い心理状態ができてしまい、ちょっと自分の出すthの音が違うように聞こえても許容範囲内ととらえて、突き詰めて考えようという意欲が起きなかったのではないだろうか。

僕が最初に時間をかけて日英の発声の違いについて語ったのは、まずその無力感を克服するためだ。外堀にあたる声の問題をある程度解決してから発音に進む、という手順が必要と考えたからである。そして次に、thをはじめとする子音の発音を通じて、日本人の抱える問題点やそれを解消するテクニックを浮き彫りにしてから、最後に母音に進もうと思っている。通常のアプローチとはだいぶ順序が違うが、それは僕なりの考えがあってのことなのだ。

いきなり子音などの発音から入るのも間違いではないが、発声の方法についても常に頭の片隅に意識しておくべきである。発声と発音のテクニックは別々に練習することもできるが、相互に関連し合う部分も大きいからだ。上あごや頭部だけを使う発声テクニックと、thその他をそれらしく発音するためのテクニックは、ばらばらに適用するだけでは十分な効果は得られない。両方を相乗的に組み合わせて、はじめてより納得のいく結果が生まれるのである。逆に、発声について解けなかった疑問が、thなどの発音テクニックを追求する中で一緒に解決される、という場合もある。両者はいわば車の両輪なのだ。

発声や発音のテクニックは、どちらも体の使い方に関わるものなので、肝心なポイントをイメージで示した後は、各自で実際にトライして自分のものにしていくしかない。そうするうちに、自分の体はこんなこともできたのか、という驚きに満ちた発見があるはずだ。そうしたブレークスルー体験を多く持っている人ほど上達は速い。発見の快感を知るにつけ、次の新しい発見が待ち遠しくなり、積極的に新しい可能性を追い求めるようになるからだ。

僕が苦心の末にたどりついたth発音のコツについてはすでに前回述べたとおりだが(新たに音声サンプルも掲載したので合わせて参照してほしい)、このコツの根底にあるアイデアをさらに発展させると、thだけでなく他の英語発音にも通じるきわめて重要なポイントがいくつか浮上してくる。察しのいい人はすでにインスピレーションを得ているかもしれないが、なるべく誰にでもわかるよう今後さらに補足していく予定だ。なお、これまでもいちおう段階を追って説明してきたつもりなので、興味のある方は最初のエントリーから掲載順に見ていただきたい。

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なお、このブログで公開しているメソッドは僕が苦心してたどりついた知的財産なので、無断借用はしないようお願いしたい(もちろん個人で発音改善などに利用される分には大いに歓迎するが)。以前僕が別のブログで音読について綴ったことを黙って本に盗用した人がいて、遺憾に思ったのでひと言。