V字ジャンプとクラシックジャンプ

スキージャンプは今でこそV字ジャンプが主流だが、札幌オリンピックの頃は板を揃えて飛ぶのが標準とされていた。最初にV字ジャンプを見たときは、ちょっとした衝撃を受けたことを覚えている。今まで当たり前だと思い込んでいたスタイルが、実はあまり効率のよいものではなかったことに気づかされたからだ。たぶん関係者はそれまで既成概念に縛られていて、新しいスタイルを試すことなど思いも寄らなかったのだろう。もっと飛距離の出るうまいやり方があったのに、ほとんど誰もこれに気づいていなかったのだから、情けない話である。

日本人の声もこれと同じで、本当はもっと楽に出す方法があるのに、のどを締めたカナ縛り発声が絶対的な標準だと勝手に思い込んではいないだろうか。V字ジャンプが支配する時代に、いつまでもかたくなに板を揃えて飛んでいてはまともに世界と競争できっこないが、同様に音声コミュニケーションの世界でも、グローバルな潮流を俯瞰して、優れた点があれば積極的に取り入れてもよいのではないだろうか。

実際、俳優やナレーター、アナウンサーなど声を生業とする人たちの中には、一部に西欧的な発声をマスターして日本語に生かしている人も増えてきたように見受けられる。たとえば歌舞伎の松本幸四郎や市川海老蔵あたりは、ほぼカナ縛りを完全に脱却した西欧的な声質で、もちろん日本語としても明瞭かつ魅力的に聞こえる。おそらくこうした声質がこれからの日本語を支配していくことになるだろう。歌舞伎は日本の伝統に深く根ざしているが、声の文化という点では時代の先端を歩んでいるのかもしれない。伝統芸能といえば、能の世界でも同じような潮流が感じられる。もちろん個人差はあるが、とくに若手の能楽師の中には、相当西洋の発声を研究していると思われる人が見うけられる(ちなみに観世流は宝生流などと比べてかなり西欧的な発声だと以前から言われているようなので、こうした動きは今に始まったことではないのかもしれない)。

このように日本文化を守っている人たちほど西欧的な声を積極的に研究している、というのは、伝統文化のしたたかさを見るようで心強い。僕たちもそうした進取の気性を見習って、もっと声について研究すべきだろう。

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