Monthly Archives: March 2014

声の翼を広げる

前回述べた「左右方向への波動」のイメージをさらに発展させると、声の「翼」を広げる、という表現のほうがよりしっくりくるかもしれない。といっても、鳥のように上下に羽ばたく翼というよりは、滑空するトビウオの羽根のような、あるいはグライダーの翼のような感じだ。声を左右に向かって広げ、波動面をなるべく大きく確保するよう意識する。声で空気の翼を形づくるイメージだ。翼の根元は、鼻の付け根から左右の頬骨、そして耳の穴に続く線だろうか。ここに想像上のスリットを設けて、そこから声を引き出し、翼のように左右に広げるさまを思い描いてみよう。

グライダーは飛行機と違って、自分で推進力を作らない。それが英語的発声の大きなポイントでもある。お腹から息をポンプのように送り出して推力を作ろう、などと考えると無理な力が入るだけだ(英語は腹式呼吸でしゃべる、と思い込んでいる皆さん、ゴメンナサイ)。むしろ、そこにある風をうまく利用して増幅しさえすれば、声は伸びやかに滑空してくれる。ただしそのためには、体をうまく使ってしっかりグライダーの骨組みを支えてやる必要があるのだ。

声が出始める場所はこのグライダーの前方だが、決して息を体の中から外に押し出して声を出すのではない。波動砲を先端からズドンと撃つのではなく、むしろ機体の前にある空気をグライダーの先端でとらえて中に取り込むときに空気が声になる、というイメージだ。空気を吸い込むときに声が出る、と考えてもよい。この息の流れが左右の翼を支えて揚力を生む。前からくる風を左右に分けて浮力に変えるようなイメージだ。こう考えれば、お腹やのどの無駄な力みも自然となくなるだろう。

さらに、両耳も翼の一部だと思って左右に広げるように意識するとよい。ただし主翼というよりは、2枚の尾翼といった位置づけだ。スキージャンプのレジェンド・葛西選手が、ジャンプの最中に手のひらをおもいきり開いて翼の先端のように使っているのを思い出して欲しい。僕たちもあんなふうに、両耳まで使って少しでも多く揚力を生み出そうと試みるべきなのだ。耳周りの筋肉の使い方を工夫して、耳の上端が普段より左右に大きく開くようにしてみよう。これは意外と効果があるので、おすすめだ。耳を2枚の尾翼のように水平方向に開いて主翼を補助することで、翼の面積がさらに大きく広がり、揚力が増す。

普段僕たちが日本語でしゃべるときの両耳は、いわば蝶がとまっていて羽根が閉じられたような状態にあり、ここで前から来た波動が立ち消えとなる。これでは声の伸びが失われてしまう。逆に、蝶が羽根を広げるように両耳の先端の距離を離してみると、翼の総面積が広がって、声がより長く滑空できるようになるのだ。

こうしていろいろと工夫しながら声の翼を広げたままの状態を保つことが、すなわち「支え」なのである。このときに使う筋肉は上あごとそれより上の部分だけで、下あご以下の筋肉はまったく力を入れない。のど仏も下がっているはずだ。のど仏が上がっていたら、下あご以下のどこかに無理な力が入っているので、最初の弛緩練習に戻って脱力し直そう。

この一連の流れが、従来の日本語にはない(というかまったく違う)英語的な響きを生むメカニズムだ。あくまでイメージの話だが、面白い効果が得られるので、ぜひ試してみて欲しい。

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横方向への波動

前々回述べた、ボワッとした無指向性のmでのハミングが大切、という話からあるイメージが浮かんだので、今日はその話から。

唐突だが、宇宙戦艦ヤマトを頭に描いてみてほしい。この船には波動砲というのが備わっていて、船首に空いた小さな四角い穴からとんでもないエネルギー波が出てくることになっている。前回説明した発声のゲートは、この波動砲を発射する穴のようなものかもしれない。この狭いゲートを息が通るときに振動し、空気が声となって発射される、というイメージだ。ただし僕の理想とする声は、この正面の波動砲だけから出るのではなく、無指向性なのだ。つまり、正面にズドンと打ち放つのではなく、左右の側面にも波動を広げたいのである。正面よりも、むしろ側面に向かうエネルギーのほうが強いくらいがよい。ふつうの宇宙戦艦ヤマトと違って、この船には右舷と左舷にも1列ずつ小さな波動砲の発射口がずらりと並んでいて、発射されると正面だけでなく、左舷と右舷に沿って花火のナイアガラの滝みたいに、横っ飛びにエネルギーが噴出するのだ。あるいは、古代ローマのガレー船を思い描いてもいい。左舷と右舷から何十本もオールが真っ直ぐに突き出され、このオールに沿って声の波動エネルギーが左右に噴出するのである。

要するに、声がただ前方に向かって直線的に飛ぶのではなく、むしろ左右に平面を描きながら広がっていく、というイメージだ。

日本語的な発声は、ただ声を前に飛ばすことしか考えていないので、よくいえばストレートで力強いが、悪くいえば広がりがなく響きに乏しい。しかも発声のポジションが低く、のどを力ませて声を出すので、伸びやかさに欠ける(カナ縛り)。

これに対し英語的な発声では前方を意識するだけでなく、高いポジションから左右方向にも波動エネルギーを発散させているのではないか、というのが僕の仮説だ。

とすれば、英語的な声が滑り出すゲートは正面ゲートだけではなく、これに加えて、水平に切られたスリットのような長い開口部を持つゲートが左右にあるとイメージしてみるのもよいかもしれない。

この左右のスリット状のゲートは、なるべく開口部を狭く保ち、またなるべく高い位置に設けるべきだろう。口内のポジションをイメージするなら、上あごの左右の歯茎に沿った線あたりか、それより多少上ぐらいだろうか。

これを踏まえて、前回のハミングをもう1度さらってみよう。目と鼻の付け根あたりにある正面の狭いゲートを息が通り、そのときに振動して声が出るのだが(もちろんあくまで体感の話)、その際同時に、左右のスリット状のゲートにも同じく息が通るかのようにイメージして(これも体感の話)、横方向への波動を作るよう意識する。こうすることで、指向性のないハミングのmが生まれ、前だけでなく左右にも音が広がる。

この左右方向への波動をコントロールするという考え方は、英語という言語、特に日本人の不得手なlrfvthといった子音の発音のメカニズムから考えれば、もしかしたら意外にナチュラルで違和感は少ないのではないだろうか(これについてはいずれ詳しく説明する)。

少なくとも、左右方向への波動というパラダイムを意識してみるだけでも、新しい声の手がかりが見つかるかもしれない。

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V字ジャンプとクラシックジャンプ

スキージャンプは今でこそV字ジャンプが主流だが、札幌オリンピックの頃は板を揃えて飛ぶのが標準とされていた。最初にV字ジャンプを見たときは、ちょっとした衝撃を受けたことを覚えている。今まで当たり前だと思い込んでいたスタイルが、実はあまり効率のよいものではなかったことに気づかされたからだ。たぶん関係者はそれまで既成概念に縛られていて、新しいスタイルを試すことなど思いも寄らなかったのだろう。もっと飛距離の出るうまいやり方があったのに、ほとんど誰もこれに気づいていなかったのだから、情けない話である。

日本人の声もこれと同じで、本当はもっと楽に出す方法があるのに、のどを締めたカナ縛り発声が絶対的な標準だと勝手に思い込んではいないだろうか。V字ジャンプが支配する時代に、いつまでもかたくなに板を揃えて飛んでいてはまともに世界と競争できっこないが、同様に音声コミュニケーションの世界でも、グローバルな潮流を俯瞰して、優れた点があれば積極的に取り入れてもよいのではないだろうか。

実際、俳優やナレーター、アナウンサーなど声を生業とする人たちの中には、一部に西欧的な発声をマスターして日本語に生かしている人も増えてきたように見受けられる。たとえば歌舞伎の松本幸四郎や市川海老蔵あたりは、ほぼカナ縛りを完全に脱却した西欧的な声質で、もちろん日本語としても明瞭かつ魅力的に聞こえる。おそらくこうした声質がこれからの日本語を支配していくことになるだろう。歌舞伎は日本の伝統に深く根ざしているが、声の文化という点では時代の先端を歩んでいるのかもしれない。伝統芸能といえば、能の世界でも同じような潮流が感じられる。もちろん個人差はあるが、とくに若手の能楽師の中には、相当西洋の発声を研究していると思われる人が見うけられる(ちなみに観世流は宝生流などと比べてかなり西欧的な発声だと以前から言われているようなので、こうした動きは今に始まったことではないのかもしれない)。

このように日本文化を守っている人たちほど西欧的な声を積極的に研究している、というのは、伝統文化のしたたかさを見るようで心強い。僕たちもそうした進取の気性を見習って、もっと声について研究すべきだろう。

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ハミングへのジャンプ!

いよいよ声を出す核心の部分になるが、前回からだいぶ間が空いてしまったのは、僕自身にちょっと迷いがあったからだ。これまで述べた準備段階はそれでよいのだが、実際に声を出すときの体感をうまく表現しあぐねたのである。

発声というのはスキージャンプにちょっと似ているところがあって、踏み切りが成否を大きく左右する。踏み切りを失敗すると、後でどうあがいても距離は出ない。
しかしそれ以前に意識してほしいのは、発声のジャンプ台が実は1つではない、という点だ。残念ながらたいていの日本人は、のどに力を入れてカナ縛りに向かうジャンプ台しか目に入らない。だから、せっかく弛緩して準備を整えても、ついこのカナ縛り方向のゲートに入ってしまうので、結局今までと同じ発声を繰り返してしまう。そうならないためには、今まで見えていなかった別方向のゲートを探し出して、そっちへ滑ってみることが大切なのだ。

せっかく下あごや首やのどの筋肉をすべて弛緩させ、上あごと頭部の筋肉で支えを作って発声の滑り出しのポジションを高く持ち上げるところまではきているのだから、あとはいちばん楽に滑れるゲートを見つけ出すだけだ。

僕がよく使うゲートは、位置としては目と鼻の付け根あたりで、顔面から2、3センチほどめり込んだくらいのところにある(もちろん体感の話だけど)。その辺りに息の通路が狭まるゲートを意識し、そこを息が通るときに振動が始まって声になる、という感覚だ。前回「第二の声帯」といったのは、このことを指している。あたかもこの場所が声帯であるかのように、ここから声が滑り出すからだ。

こうして声出しを練習するときは、ハミングから始めるのがよい。ただし、閉じた唇に息をぶつけるようなハミングは逆効果だ。これはまさに、カナ縛りジャンプ台へまっしぐらのルートだからだ。さっき述べたゲートを通った息は、そのあとはあくまで無指向性でなければならない。ハミングのmを自然と雲散霧消させるように意識しよう。mの子音がどこで作られるのか自分でもわからないくらいにボワッとしたmでハミングすることだ。間違っても「ンー」と力んではいけない。ボワッとしたmのあとに、いつでも好きな母音を付け加えられるような、力みのないハミングを目指そう。そして同時に、声の滑り出しのポジションは常にしっかりと意識しておく。
このだらんとしたハミング体感に慣れるため、ひまを見て好きな歌をこのハミングで歌ってみるといいだろう。

実は、声を滑り出させる上できわめて有効なゲートが少なくとももう1つあって、ポジションはさらに頭の後ろのほうで、発声のメカニズムも息の流れもまったく上記とは別ものになるのだが、これはまだ僕自身言葉でうまく説明できないので、今はとりあえずあまり触れないでおく(これを説明しようとして迷ったので、前回からだいぶ間が空いてしまったのだ)。

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第二の声帯

前回説明した短母音のiは、日本語の「い」しか経験したことのない日本人にとってはめちゃめちゃ違和感があるので、はじめは心理的な抵抗が相当強いと思う。そこで、以前話した平泳ぎとバタフライの比喩を思い出してほしい。今やろうとしている声の出し方は、これまでとはまったく違う泳法(みたいなもの)なのだ。上あごと下あごの境界を水平線にたとえるなら、水平線上で泳ぐ平面的な平泳ぎが日本人の得意とするのど声。これに対し、水平線を超えて縦方向に飛び出す三次元的なバタフライが英語の声、というイメージだ。バタフライを泳ごうと思ったら、泳ぐ=手を横に掻く、という常識は捨ててかからなければならない。それと同じで、ほんとうに英語的な声を目指すなら、声を出す=のどに力を入れる、というのど声の習性(すなわちカナ縛り)を脇へ押しのける必要があるのだ。

さらに言うならば、「声帯がのどにある」という意識も捨てたほうがいい。のどを意識している限り、のどの力は抜けないからだ。だまされたと思って、声帯はのどではなく両耳の中間ぐらいの位置にある、と意識してみるといい。もちろん解剖学的にはでたらめなのだが、あくまで体感として、ほんとうに声を鳴り響かせたい場所はのどではなく、むしろこの付近なのだ。実は前回説明した「支え」の目的も、この高いポジションに発声の意識を集中させ、それ以外の部分は完全に脱力することにある。

「支え」のフォーカスとなるこの部分を、仮に第二の声帯と呼んでおこう。これは仮想的な声帯であり、同時に実質的な声帯でもある。つまり二重の意味で、virtualな声帯なのである。

以前述べたとおり、「支え」では上あご系の筋肉だけをうまく使って、口内のスペースの天井をできるだけ高く持ち上げようとする。この前は、鳥かごの吊り手をつまんで引き上げるようなイメージ、という比喩を使ったが、イメージはゴシック教会のアーチ型天井でも天文台のドームでもいい。ともかく口内の低い天井を思い切り吊り上げて高くし、これをキープするイメージだ。その最高点は、実際には多分後頭部の近くで、鼻の奥か目の後ろ辺りになるだろう。模索していけば、いずれ必ずその近辺にしっかりと発声の起点になるポイントが見つかる。それが上述の第二の声帯である。英語に適した発声を求める旅は、すなわち第二の声帯を発掘する旅なのだ。

声を出すまでの準備段階についてはこれでいったん終了して、次回からは実際に声を出す手順へと話を進めよう。

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