Monthly Archives: May 2014

thとrの相似性

英語の子音の中でも、rの発音ほどひどく誤解されているものは、他にないのではないだろうか。日本人がrの発音を苦手とする理由も、たぶんそこにある。

誤解されているのは、「舌の形」だ。一般的には、ゼンマイを巻き込むように、あるいはスキー板の先端のように、舌の先をぐっと上に反らせ、そこに息を当てながら発音する、といった指導が多い。ところが実は、これはどうしようもないほど間違ったやり方なのだ。

なぜかというと、そうやってrを発音した場合は、後に続く母音が必ずと言っていいほどカナ縛り発声になってしまうからだ。

試しに、舌の先をスキー板の先端みたいに反らせてrを発音してからaの長母音を続けてみると、どうなるだろうか。

舌の先は緊張が解けてまっすぐに伸び、その上を転がるように母音が続いて、口の正面真ん中を出て行くことになる。日本語のラとかなり似た音だ。舌の先端が口蓋に触れない点と、発音し始めの舌先の位置がラよりも口の奥にある点が違っているが、そのあとの母音の出方はラと変わらない。だからほとんどの学習者は、ラとraの母音の違いに気づくことなく、発音フォームを固めてしまう。子音部分だけはなんとなくそれらしい音が出るので、そこで満足してしまうのである。

舌先を手前に丸めるようにしながら発音するrは、しょせん擬似的なrに過ぎない。発音テクニックとしては、厳密にいうと間違っているのである。

この間違いを正さないと、日本人のrの発音はたぶん永遠によくならない。

では、どうするか。

ヒントはthの発音にある。thとl(エル)の発音に相似性があったことを思い起こしてほしい。もしかしてthとrの発音にも、同じように相似性があるのではないだろうか。だとすれば、そこが突破口となるはずだ。

th発音のポイントは前にも述べたとおり、主に舌の両脇に息を流すよう意識して、ステレオ感覚で音を作ることにある(もちろんこのとき、舌に余計な力が入らないようリラックスしておくことも大切だ)。

実はrの発音も要領はthと同じで、ポイントは舌の両脇にある。

舌の左右と口蓋の間にできる空間をうまく使ってステレオで発音することで、同じ基本フォームからthやlやrが作れるのだ。このとき舌は、息を左右に分ける一種のセパレーターとしての役目を果たす。したがって、舌の両脇の使い方が何より重要になってくる。

従来いわれてきたrの発音フォームといちばん大きく違うのは、舌先を手前に巻き込む必要がない、という点だ。やりたければ多少巻き込んでも構わないが、それは必要条件ではないのである。

その代わりに、舌の両脇、とくに舌の中ほどからやや奥にかけての左右両端を、口蓋に近づけてから離す、という動作を意識しながら、rayと発音してみよう。

この舌の形は、海を泳ぐエイ(ray)にどこか似ていないだろうか。左右のヒレを上の口蓋に近づけては離す動きは、羽ばたくように泳ぐマンタの仕草を連想させる。その際に、息が左右に分かれて押し出され、英語らしいrの音がステレオで響くのだ。横方向の波動である。

これに対し、今まで教わってきたrの出し方は、カメレオンが巻いた舌を伸ばして虫を捕まえるときのように、中央正面を撃ち抜くような動作だった。もっぱら前方向の波動しか意識されていなかったのだ。当然、モードもステレオではなくモノラルである。

この違いさえわかれば、もうrの発音は恐くない。ただし、発声がのど声にならないようにくれぐれも注意。常に発声ポジションを高く保ち、下あごやのどには決して力を入れないことが肝心だ(詳細はこのブログを最初から読んでみてほしい)。うまくこの発声とかみあえば、rの音の海を自由自在に回遊できるようになる。

このrの発音を練習することで、すでに見てきたthやlの発音もより響きが豊かになってくるはずだ。舌の両脇の使い方が以前より上達してくるにつれて、より微妙なニュアンスの差を出せるようになるからだ。

舌の両サイドを使う、という共通ポイントをしっかりと意識することで、これまでもっぱら舌の中央から前へ押し出すことしか教えられてこなかった子音の発音が(rだけでなくthやlその他もそうだ)、劇的に変化するはずである。このテクニックを皆が共有するようになれば、遠からず日本人の英語発音には革命が起きる、と予言しておきたい。

参考までに、they, lay, rayの発音例を挙げておこう。例によって最初はカナ縛り発声+従来教えられてきた発音テクニックによるもの、次がハイポジション発声+新しい発音テクニックによるものである。

音声サンプル

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な お、このブログで公開しているメソッドは僕が苦心してたどりついた知的財産なので、無断借用はしないようお願いしたい(もちろん個人で発音改善などに利用 される分には大いに歓迎するが)。以前僕が別のブログで音読について綴ったことを黙って本に盗用した人がいて、遺憾に思ったのでひと言。

thとl(エル)の相似性

thと舌の使い方について前回述べたが、このやり方がほぼそのまま応用できる別の子音がある。日本人が苦手とするl(エル)だ。

これまで説明してきた新しいth発音の舌の形は、実はlを発音するときの舌の形と非常によく似ている。どちらも、舌先をやや丸くすぼめるようにとがらせて軽く突き出し、舌の左右にスペースを作るよう意識する点は同じだ。

thとlでは、舌先を配置する場所がやや異なる。lの場合は、上前歯の付け根、歯茎に近いところに舌先を当てることが多い。発音するときは、舌先をあまり歯に強く押しつけず、むしろやや引き気味にしながら、舌の左右両側に息を通すようにする。その際、舌の上側には息を通さない。こうして作られる有声音がlになる。lの音を十分に響かせたら、最後に舌先を前歯からポンと放してフィニッシュしてもよい。

やってみると、舌先の位置はthの位置からあまり大きく変えないでもlが発音できることがわかるだろう。舌のフォームはほぼthのままでよい。舌先と上前歯の間のスペースをわずかに調節するだけで、thとlを発音し分けることができるのだ。

要するにthとlの一番大きな違いは、舌先と歯の間の空間がブロックされる割合なのである。

lの場合は、この空間が100%ブロックされ、息は舌の左右だけを通っていく。なので、lでは舌の先端が歯に触れた状態をわりとしっかりキープしておく必要がある(ただし舌は力ませないこと)。

これに対し、thでは舌先と歯の間の空間が左右からくさび状に空いていて、そこに息(声)が通る(これは前に指摘していなかった点だが、補足する必要があると思われるので追加しておく)。といっても、舌先の中央付近はほとんど歯との間に空間がないくらいにしておくほうがよい。ここが開きすぎると締まりのないthになってしまうので、なるべく舌先の中央よりも左右の端に近い部分を開けるようにし、全体の開き加減をうまく微調整しよう。絵文字にすると、thの舌先と上前歯の間の空間は >=< 、lの場合は >-< といった感じだろうか。

すでにlの発音がうまくできている人は、lの舌のフォームのまま舌先を上前歯の先端に軽く当てて、舌の両脇から息や声を出せば、容易にきれいなthが発音できるだろう。これはlとthの舌のフォームに互換性があるからだ。lは本来舌の両脇に息を通して音を出す子音なので、これと同じ要領でthを発音してみれば、両者の相似性がいっそうよく理解できるはずだ。

前回thの発音で舌をリラックスさせる方法を示したが、それと同じ要領がlにも当てはまるので、試してみてほしい。ついでに、それと逆の方法で舌を緊張させて発音してみるのもよい経験になる。カナ縛り発声との対比が実感できるからだ。

前回とは逆に、舌を緊張させてカナ縛り声でthやlを発音する要領を以下に示す。
1. 下あごに力を入れて突き出すようにする。
2. 舌をなるべく横に広げてその両脇にスペースがなくなるよう意識し、息を中央からモノラル感覚でリリースする。
3. 舌全体を前に突き出そうとする衝動にまかせ、舌先をなるべく前に出したままにする。
4. その結果、舌の付け根(のどの奥)の左右が緊張し、カナ縛りが完成する。

これに加えて、のどを意識して発声ポジションを低くすれば、もう完ぺきなのど声だ。(皮肉を込めているので誤解なきよう。)

参考までに、thinkとlinkを1.カナ縛り発声と2.脱カナ縛り発声で言うとどう聞こえるか、比べておこう。

 

音声サンプル

ついでながら、「英語で朗読!」サイトに掲載している「赤毛のアン」オーディオブック作成プロジェクトがほぼ完了に近づいたので、興味のある方はそちらもお聴きください。

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th発音と舌の関係

先日述べたth発音のコツがうまく作用するとしたら、それはなぜだろうか。分析してみると、理由はいくつか考えられる。

1. 舌を噛む力が弛んで下あごが脱力できたこと。
2. 舌先がすぼまって両脇にスペースができ、息が左右にステレオ感覚でリリースされたこと。
3. 舌全体を前に突き出そうとする衝動が抑えられ、逆に舌先だけを軽く出してあとは引き気味にする構えができたこと。
4. その結果、舌の付け根(のどの奥)の左右がリラックスし、カナ縛りが解けたこと。

どれも重要なポイントだが、共通項を探すなら、舌を最大限リラックスさせたまま要所にだけ必要最低限の力を入れる、ということだ。thの場合、要所はやはり舌先だ。舌先はあまり左右に平たく広げず、逆にやや丸くすぼめながら前に出す。このとき舌先を力ませないこと。すぼめた舌先がリラックスできるよう、舌先は突き出したままにせず、むしろthを発音しながら軽く後ろに引くぐらいにするとちょうどよい。引き気味の舌先の両脇あたりを息が前にすり抜けていくようにすると、そのコントラストで子音がより明確になる。音を前に出そうと意識すると一緒に舌先もせり出しがちになるが、これでは力みが入って逆効果となる。

僕の体感では、次のように意識するとうまくいく。すぼめた舌を、中が空洞になった筒であるかのようにイメージするのである。そして、舌先の左右を息が出ていくのと反対に、舌の先端からは逆に空気を吸い込むようにしてみる(もちろん非現実的だが、こうしたイメージは大切なのだ)。こうして吸い込まれた想像上の空気は、舌を内側から満たしながらお腹へとつながっていく感覚だ。こうすると、舌全体が必要なフォームを保ったままリラックスしてくれる。

thに限らず英語を発音するときは、常に上に述べたようなポイントを守るようにするとかなり効果的だ。それさえ意識しておけば、日本語とはまったく異なる舌のデフォルト状態を作り出すことができるので、無理なく英語らしい響きで発音することが可能になるのだ。少なくとも僕はこれを実践して効果を実感している。thの発音は、この英語的なデフォルト状態を確認する上でとても重宝する。日本語をしゃべっているとつい日本語的デフォルト状態(カナ縛り)に戻りやすい。それを解除して英語音声に切り替える上で、th発音の存在は便利きわまりないのだ。

もうひとつ付け加えたいのは、息が上あご(特に口蓋)の左右に沿って流れるようにする、という点だ。下あごでもなく、上あごの中央でもない。あくまで上あごの左右を意識しよう。息の流れが下あごや口の中央に向かうのは、カナ縛り状態がのさばっている証拠なのだ。

ハミングだけやっているぶんには、口の中での息の流れはほとんど気にする必要がなかったが、子音の発音ではこれが無視できなくなる(口から息が出るからね)。気をつけないと、日本語的な子音の作り方(これもカナ縛り)にとらわれて、せっかくハミングで練習した高いポジションでのリラックスした声が生かせなくなってしまうからだ。徹底した舌のリラックスを併用しながら口の中の息の流れをうまく英語的にコントロールすることが、子音発音の最重要課題なのだ。

従来このようなポイントを注意しながらthを発音するよう指導してくれた人は、僕の知るかぎり存在しない。むしろ僕のいうテクニックは、従来の指導法から見ればぶっとんでいるように見える部分も多いと思う。しかし実効性を考えると、今後はたぶん僕の示した方向性が主流となるだろう。そうならなければ、日本人の英語発音はいつまでも袋小路で足踏みを続けるだけなのだ。

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thの発音を支える発声

thが基本単語に多く含まれる、という話は前にもしたが、中でも定冠詞theや、代名詞this, that, these, those, they(その活用形them)など、それなしでは英語が成り立たないというくらい頻出する単語に使われていることには、とっても深い意味があるんじゃないだろうか。

何世紀か前には、youのためぐちバージョンであるthou(その活用形thee)なんてのも頻繁に使われていたようだ(シェークスピアを読めばわかる)。代名詞だけでなく、thinkとかthingとかthereなんかにthが使われているのも象徴的だ。要するに、具体的な事象をアブストラクトな思考に置き換える場合に必要な道具が、thで固められている感じなのだ。うがった見方をするなら、英語で何か考えるにはまずthからスタートせざるを得ないよう仕組まれているのでは? と疑いたくなるほどである。

もちろんその裏には、英語を話す人たちがthの音をこよなく愛している、という事実があると推察されるし、そのことは英語の音全般にも影響を及ぼしているに違いない。だからこそ前にも説明したとおり、正しいthの音をとことん追求しないことには英語音声の真の姿に迫ることはできないのである。th発音のクオリティは、英語らしい音質かどうかを見分けるリトマス試験紙のような役目を果たす、といっても過言ではない。

ところが従来の指導は、thの発音について通り一遍の説明を最初にするだけで、「ほんとうにそれでよいのか? もっといいアプローチや別のとらえ方はないのか?」という大事な掘り下げが、指導する側に欠けていたように思えてならない。日本人のth発音の現状を建設的に批判し改善しようとする試みが、今までどれほどなされてきただろうか? むしろ、thの重要さにまったく目を向けず、ただ発音しにくいやっかいな音だとばかりに、いい加減にスルーしてきた人が教える側にも教わる側にも多かったのではないかと思う。せっかく自分の英語発音を磨く最高の手がかりが日本人の目の前にぶら下がっていたのに、僕たちはずっとそこから目をそむけてきたのだ。これは自分たちの甘えや怠慢以外の何ものでもない、と自戒の意味も込めて思う。

いちばん欠けていたのは、th発音の実践面での研究だろう。もちろん発音の仕組みは理論上は解明されているだろうが、それを誰でも効果的に実現できるようにするテクニックが十分に発達してこなかったのである。

これは一つには、英語的な発声と日本語的なカナ縛り発声(のど声)との違いが十分に解明されていなかった、という事情もある。こうした発声の違いをつかめない人が多かったために、「日本人が英語の発音をうまくできないのは当たり前」、という半ばあきらめに近い心理状態ができてしまい、ちょっと自分の出すthの音が違うように聞こえても許容範囲内ととらえて、突き詰めて考えようという意欲が起きなかったのではないだろうか。

僕が最初に時間をかけて日英の発声の違いについて語ったのは、まずその無力感を克服するためだ。外堀にあたる声の問題をある程度解決してから発音に進む、という手順が必要と考えたからである。そして次に、thをはじめとする子音の発音を通じて、日本人の抱える問題点やそれを解消するテクニックを浮き彫りにしてから、最後に母音に進もうと思っている。通常のアプローチとはだいぶ順序が違うが、それは僕なりの考えがあってのことなのだ。

いきなり子音などの発音から入るのも間違いではないが、発声の方法についても常に頭の片隅に意識しておくべきである。発声と発音のテクニックは別々に練習することもできるが、相互に関連し合う部分も大きいからだ。上あごや頭部だけを使う発声テクニックと、thその他をそれらしく発音するためのテクニックは、ばらばらに適用するだけでは十分な効果は得られない。両方を相乗的に組み合わせて、はじめてより納得のいく結果が生まれるのである。逆に、発声について解けなかった疑問が、thなどの発音テクニックを追求する中で一緒に解決される、という場合もある。両者はいわば車の両輪なのだ。

発声や発音のテクニックは、どちらも体の使い方に関わるものなので、肝心なポイントをイメージで示した後は、各自で実際にトライして自分のものにしていくしかない。そうするうちに、自分の体はこんなこともできたのか、という驚きに満ちた発見があるはずだ。そうしたブレークスルー体験を多く持っている人ほど上達は速い。発見の快感を知るにつけ、次の新しい発見が待ち遠しくなり、積極的に新しい可能性を追い求めるようになるからだ。

僕が苦心の末にたどりついたth発音のコツについてはすでに前回述べたとおりだが(新たに音声サンプルも掲載したので合わせて参照してほしい)、このコツの根底にあるアイデアをさらに発展させると、thだけでなく他の英語発音にも通じるきわめて重要なポイントがいくつか浮上してくる。察しのいい人はすでにインスピレーションを得ているかもしれないが、なるべく誰にでもわかるよう今後さらに補足していく予定だ。なお、これまでもいちおう段階を追って説明してきたつもりなので、興味のある方は最初のエントリーから掲載順に見ていただきたい。

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