のど声を生む「カナ縛り」

日本語の48文字(いわゆる50音)は、それぞれ子音と母音がセットになっていることはご存じのとおりだ。(「あ」「い」「う」「え」「お」には母 音しかないけどね。)これは、元来日本語では子音と母音という区別があまり意識されてこなかったことを意味している。「さ」、「こ」、「め」など、それぞ れ一文字が音節の最小単位なので、それ以上分解しようなどと考える日本人は、昔はあまりいなかっただろう。

こうして母音と子音がタイトなユ ニットとして不可分に結びついていることは、日本語の音声にも大きな影響を及ぼしたに違いない。子音と母音を分けて発音するという発想がない以上、子音や 母音を強調する習慣も生まれないし、音の長さを調節したり音に強弱をつける必要もないからだ。そうしてみると、日本語の音声が英語などの音声とはずいぶん 違った方向へ向かったのも不思議はない。

どの国でも、言葉はより楽に省エネでしゃべれるよう変化していくものらしい。だとすると日本語の音 声は、50音をより簡単に相手にコミュニケートできるよう進化してきたはずだ。たぶん、百人一首のかるた取りか、超イントロクイズみたいに、音の出だしを 聴いただけでそれが50音のどれがかすぐに分かるような声の出し方が生き残ってきたに違いない。それが日本語を「のど声」へと向かわせたのだ、と僕は推測 している。

では、超イントロクイズみたいに一瞬で50音を聴き分けられる声とは、どんなものだろうか。

まず、子音部分を短く して、すぐ母音に移行できるようにすることが必要だ。なるべく短時間に必要な音声データを出し切ってしまう必要があるからだ。当然、子音の中でも、出すの に時間のかかるFやWなどの音は(昔はあったが)敬遠され、年月が経つ間に日本語から消え去っていった(Wはかろうじて「わ」に残ってるけどね)。

また、声がすぐに出てくれないと困るので、発声準備に時間のかからない瞬発性のある声が勢力を増すようになる。つまり、50音の中のターゲットを一瞬で迷いなく撃ち抜くような発声だ。

その結果、のどからストレートに口へ向かって出す共鳴の少ない生の声(のど声)が広く受け入れられ、50音とセットになって日本語の基盤に据えられたのではないだろうか。

と すれば、日本語の母音「あ」「い」「う」「え」「お」は、実は純粋な母音というよりも、のど声という特殊な発声と不可分に発達してきたと考えられ、その意 味ではやや特殊な音といえる。思い起こしてほしい。僕たち日本人は、小学校の頃に「あ」「い」「う」「え」「お」を習ったはずだが、みんな天真爛漫にのど 声で「あ」「い」「う」「え」「お」と唱和してきたのではないだろうか。嫌いな奴には「イーだ!」と思いっきり口角を左右に引っ張って、のどが唇まで出て くるくらいの感じで声を出したろうし、期待を裏切られたときは「エーッ!」とのどに目一杯ストレスをかけて声を押し出したに違いない。今でもそうしている 人も多いだろう。

この本能的といえるほど自然に出てしまう日本人的な声こそが、のど声の正体だ。(歌手でいうと、松任谷由実や大江千里が典 型的なのど声で、彼らの歌声は、平均的な日本人がしゃべるときの発声をきわめて忠実に映し出している。)のど声は、「あ」「い」「う」「え」「お」の母音 に限らず、日本語の50音すべてと切っても切れない関係にあるといってよい。

日本語で生活している限りは、のど声でも何の不都合もない。むしろ、積極的にのど声を使わないとコミュニケーションがうまくいかなかったりするほどだ。しかし英語などを学ぶ段になると、いつもはほとんど意識せずに使っているこののど声という要素が、相当ひどい悪さをする。

僕 たちは英語を読んだり話したりするとき、ほっておくと頭の中で英語の音を日本語の50音に勝手に変換してしまうのだ。そして、たとえば英語の短母音a, i, u, e, oは「あ」「い」「う」「え」「お」になり、のど声の要素が付加されてしまう。いわゆるカタカナ英語というやつだ。

日本語のカナが発声を束縛するこの習性を、僕は「カナ縛り」と名付けている。日本語にバンドルされているのど声を解除することができれば、英語はより速く上達し、学ぶ楽しさも倍増するだろう。

では、カナ縛りを解いて英語らしい母音や子音を出すにはどうしたらいいのか。それをこれから検討していこう。

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