Monthly Archives: August 2014

「国井モデル」と子音の発音

国井モデルは、声の成分別にみるなら、次の3種の音を合成するテクニックといってもよい。すなわち、(1)鼻メガホンで響かせる基本音声、(2)母音、そして(3)子音の3つである。

国井モデルでもっとも重視するのが(1)の鼻メガホンで鳴らす基本音声だ。この成分こそが、豊かな声の響きの核となるからである。鼻メガホンは声を出している間中、常にきれいに鳴らし続けておく必要がある。したがって、鼻メガホンに向かう息の流れをできるだけ妨げないようにすることが、国井モデルの基本となる。

ハミングだけ練習しているときにはそれほど面倒は起きないのだが、これに母音や子音をつけようとすると、とたんにいろんな障害が出てくる。鼻メガホンへの息の流れが途切れたり、歪んだりし始めるのだ。だから、これを回避するための特殊なテクニックが必要になってくる。

母音の作り方については、すでに前回そうしたテクニックについて述べたので、今回は子音の作り方に的を絞って解説を続けよう。

子音を発音する際に、僕たちはつい口の中心に子音のエネルギーを集めようとしがちになる。しかし英語に関する限り、実はそれがまさに一番やってはいけないことなのである。

このことは、英語を教えたり指導したりする立場にある人の間では、残念ながらほとんど認識されていない。だから学習者の皆さんが知らないのも無理はない。だって教わっていないんだもの。裏を返すと、学習者の皆さんがこの点にさえ気をつけて練習すれば、かなり短時間で別次元の発音クオリティを手に入れることができるはずだ。

僕は以前にもthやl、rなどの子音をうまく発音するヒケツとして、舌の中心から子音を押し出すのではなく、舌の左右を通る息で子音を作るとよい、ということを指摘した。国井モデルの考え方に照らしてみると、これはきわめて理にかなっている。

国井モデルでは、息の本流は鼻メガホンを鳴らす方向に向かうので、口の奥では垂直に伸びる息の柱が噴水のように常にわき上がり、口蓋垂の後ろへ流れ込んでいる。そして、この息の柱を邪魔しないように、後ろからもう1つの息の流れが左右に分かれて口メガホンに入り、ステレオ状の2本の支流となって頬の内側を伝いながら前へ向かう。この息の支流が、声に母音や子音の響きを付け加えるのだ。

これに対し、一般的な日本語の発声・発音モデル(カナ縛りモデル)では、息の流れはのどの奥から、開いた口の中心に向かって一直線に伸び、声も母音も子音もぜんぶ一緒になって口メガホンから出てくる。つまり、機能別に分化されていないオールインワン状態である。また、鼻メガホンの響きはほとんど利用されることがない。

ほとんどの日本人はこのカナ縛りモデルでしか声を出したことがないので、英語をしゃべろうとするときも当然このモデルで声を出そうとする。この状態では、はっきり発音しようとすればするほど息のエネルギーが口の中央に集まってしまうので、鼻メガホンの響きがない浅い声になるだけでなく、母音や子音も広がりのない平坦な音に聞こえてしまう。

これに対し、国井モデルではまず、息の流れを交通整理する。優先レーンは鼻メガホンに向かう垂直の流れ。そして、後ろからこれを迂回しながら前へ向かう口メガホンの息の流れが左右2本付け加わる。それによって、母音と子音が形成される。この図式をよく頭に入れて発音するよう心がけるとよい。

とくに子音については、あるコツを覚えておくとかなりうまく発音できる。

そのコツとは、「奥歯を意識すること」である。

いちばん奥の歯は、上下左右に4本ある。まず口を軽く開けて、顔の右半分を意識しよう。そして、右側の上下の奥歯が円柱のようなものでつながっている様子をイメージする。同様に、左の上下の奥歯についても円柱でつながっているさまを思い描く。この2本の円柱に挟まれたエリアは、息が鼻メガホンに向かって垂直に上っていく優先レーンの領域だと思ってほしい。つまりこの領域は、口メガホンの息に関しては常に遮断機が下りて通せんぼ状態になっていなければいけないのだ。(ここがカナ縛りモデルと国井モデルの最大の違いでもある。)

ということは、国井モデルで口メガホンを鳴らすには、左右の奥歯よりもさらに右および左に息を通すことが求められる。

言い換えると、奥歯と頬のあいだの空間を吹き口として、左右の頬の内側伝いに息の通り道を設けることが、国井モデルで口メガホンを鳴らす方法、ということになる。

特に子音については、息を左右の奥歯のさらに右および左から回り込ませるような位置を起点にすると、かなりうまくいく。こうすることで、子音の息は左右の頬の内側を伝って進み、唇の左右からステレオ状に出て行く。th、l、rの発音のコツとして述べた「舌の左右を意識する」というのは、この頬の内側を流れる息を使うことにも通じるのだ。

今まで僕たちの考えてきた子音の息の出し方とあまりにかけ離れているので、最初はみんな戸惑うだろう。でも、この戸惑いのフェーズさえ乗り越えてしまえば、実は国井モデルの子音のほうがずっと楽に出せて、しかも明瞭に聞こえる。左右の奥歯の外側から頬伝いにステレオ状に息を送ることで、英語特有の切れのあるシャープな子音が生まれるからだ。th、l、rはもちろん、s、z、f、v、wなども、これまでとはまったく別次元の音になる。

s、z、f、v、wなどの子音を発音するとき、皆さんの意識は前歯や唇の中央付近に集中していないだろうか? 僕は長い間ずっとそう思って発音してきたし、そのやり方での発音クオリティが特別いいわけではないけれど、まあ通じるレベルだからそんなものだろうと思って、それ以上あまり考えずにいた。なので、これが間違いだと気づくまでには気の遠くなるくらい長い時間がかかってしまった。皆さんには同じ間違いをくり返して欲しくない。

最終的には確かに前歯の付近で摩擦音やら何やらが出ることになるのだろうが、それはあくまで現象的な説明に過ぎない。音声学ならそこで思考停止してもいいのかもしれないが、発音を実践する上ではさらに一歩も二歩も踏み込む必要がある。発音や発声のテクニックは、単なる現象の記述とはまったく別ものだからだ。

現象どおりに前歯や唇の中央付近で発音しようとしても、なぜかうまくいかない。ところが、奥歯の後ろから両頬に回り込むように子音の息を発してみると、左右から前に進んできたステレオの息が最終的には前歯の付近で合流し、立派な子音になる。つまり、子音の出発点として意識する場所を左右の奥歯の後ろあたりにシフトすることで、不思議にも前歯付近から出る音がより明瞭化するのだ。

カナ縛りモデルと国井モデルのこうした構造的な違いを意識しないかぎり、いくら英語らしい発音をしようとしても徒労に終わるだろう。それは、これまでの英語教育がいやと言うほど実証してきたとおりだ。逆に、国井モデルへの切り替えさえできれば、英語的な発音が面白いほど簡単に身につくはずである。

しかも、国井モデルは日本語の発音にも応用でき、未来の日本語音声のクオリティを高める役目も果たす。ぜひ活用していただきたい。

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な お、このブログで公開しているメソッドは僕が苦心してたどりついた知的財産なので、無断借用はしないようお願いしたい(もちろん個人で発音改善などに利用 される分には大いに歓迎するが)。以前僕が別のブログで音読について綴ったことを黙って本に盗用した人がいて、遺憾に思ったのでひと言。

「国井モデル」と母音の発音

前回提唱したこの発声・発音モデルについて、その後さらに考察を加えたので、簡単に整理しておこう。

「国井モデル」のいちばんの特徴は、鼻メガホンへの息の流れを最重要視することだ。発声の基本は、声帯でものどでも口でもなく、鼻メガホンを鳴らすことだととらえるのである。

声を出さずにふつうに鼻で呼吸しているときの息の流れを意識してみてほしい。これがそのまま、国井モデルの息の本流となる。のどから鼻腔を経由して鼻孔から出る息の流れを、なるべく歪めずに保持することが基本だ。

この基本的な息の柱に声が加われば、ハミングになる。なので、これを便宜上「ハミングの柱」と呼ぶことにする。

国井モデルのもう1つの特徴は、ハミングの柱を邪魔しないよう気をつけながら、さらに口メガホンを鳴らす息の支流を別途付け加えることで、発音を明瞭化する点にある。

図式化すると、ハミングの柱が太く垂直に伸びているところへ、後ろから別の息が川の水のように流れてきて二手に分かれ、柱を回り込みながら前へ進むような感じだ。

(このバリエーションとしては、垂直に伸びるハミングの柱の根元から、前に向かって川の水がわき出るように口メガホンを鳴らす、という図式もあり得る。つまりハミングの柱の前方に、のどから口へ向かう息の流れを作るやり方だ。このほうが2つの息の流れが完全に分離され、一見より自然で合理的なように思える。ところが実際には、この方法だと鼻声に聞こえやすく、またカナ縛りも解けない。不思議とデメリットが多いのだ。ハミングの柱をはさむように後ろから母音や子音を作り始めるほうが、最初はちょっと違和感があっても結局は近道になる、と僕は見ている。)

要するに、本流である鼻メガホンの息(垂直に伸びるハミングの柱)と、支流である口メガホンの息(柱の周囲を回り込みながら前へ流れる)を最適に複合させるのが、「国井モデル」のエッセンスなのだ。中でも、鼻メガホンに向かう息の柱を妨害しないよう、口メガホンの息の流れを後ろから左右二手に分けて回り込ませる、というパターンは常識を覆すもので、おそらく今までだれも明確に意識していなかった画期的なテクニックではないかと自負している。

従来の日本語の発声・発音では、口メガホンの息ばかりが王道として扱われ、鼻メガホンはほとんど使われてこなかった。だから、いくらハミングなどで鼻メガホンの息を使う練習を積んでも、日本語を発音しようとする瞬間に口メガホンの息のほうが優勢になり、せっかく作った鼻メガホンの息の流れを遮断してしまっていたのだ(カナ縛り)。

これに対し国井モデルでは、口メガホンの息が左右二手に分かれて、鼻メガホンへ向かう息に道を譲る。したがって、英語を発音するときも日本語を発音するときも、鼻メガホンへの息の上昇流は途切れない。常に鼻メガホンが鳴っている状態になるので、響きが豊かになる。しかも口メガホンの左右の幅が広がるので、母音と子音がより明瞭に発音できる。

国井モデルで英語を発音するときは、口メガホンの吹き口を日本語の場合よりさらに高くもっていくよう意識するとよい。前回説明に用いた3人1組のシンクロナイズドスイミングチームのような動きをイメージすると、母音と子音のつながりがなめらかになり、より英語らしい響きが得られる。

これに対し、国井モデルで日本語を発音する場合は、口メガホンの吹き口をやや低い位置に設定したほうが、より音節の区切りが明瞭になって聞きやすい。各自でいろいろと工夫してみるとよいだろう。

試しに、日本語のアイウエオを、一般的な発音と国井モデルでやってみよう。国井モデルでは、口蓋に向かってガラスを曇らせるようにハーッと息を吹きかけるような流れが常に基本となる。こうすることで、鼻メガホンに息が送り込まれ続けるのだ。国井モデルの「アイウエオ」は、「ア’イ’ウ’エ’オ’」と表記する。「’」は、鼻メガホンに向かう息の柱を意味していると思ってほしい。

一方、アイウエオに相当する母音の変化(ア’イ’ウ’エ’オ’)を作るのは、口メガホンの息である。のどの奥で垂直に噴水のように伸び上がるハミングの柱を意識し、その噴水の流れを乱さないように気をつけながら、柱の背後から二手に分かれて川の水が流れ出てくるように口メガホンへ息を送る。そして、ハミングの柱の断面の形を母音に応じて変化させるよう意識するのがコツだ。

日本語のアイウエオでは、息が前方に向かっているので、僕たちはふだんから前向きの息の柱を意識しながらアイウエオを発音していると思う。つまり、僕たちはこの前向きの柱の断面の形を、アイウエオの母音に応じて変化させているのだ。一方国井モデルでは、息の柱が前向きではなく上向き(垂直)になっているので、ア’イ’ウ’エ’オ’の母音の変化は、垂直の柱の断面(ないし底面)の形を変えることで作られる。そして、母音の違いに応じて太さや形の変わるこの柱を、後ろから回り込んではさむようにしながら口メガホンの息を左右に送るのである。口メガホンの息の量は少しでよい。鼻メガホンに送る息のほうがメインで、口メガホンは発音を明確にするための補助的な役割さえ果たせばよいのだ。

まずは無声で、そのあと有声で、国井モデルの「ア’イ’ウ’エ’オ’」を発音してみよう。これまでの「アイウエオ」との違いを、自分で比較しながら実感してみてほしい。

国井モデルの「ア’イ’ウ’エ’オ’」は、英語の短母音a, i, u, e, oにほぼ等しいといってよい。「ア’イ’ウ’エ’オ’」が発音できれば、英語の母音の基礎はもうマスターできたも同然なのだ。

次回は国井モデルと英語の子音の関係について考える。

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平泳ぎ vs. 「国井モデル」

 

鼻腔を共鳴管として使う仕組みのことを、僕は「鼻メガホン」と呼んでいる。日本語ではかつてほとんど使われることのなかったこの仕組みは、英語では以前から当たり前のように使われている単純きわまりないものだ。

だが、いくら僕がそう言葉で説明しても、はなから信用しない人もいるだろう。「鼻腔への通路は、鼻音(n、m、ngなど)や鼻母音を出すとき以外は閉じられている」という通説(俗説?)もあるらしいので、なおさらだ。鼻腔への通路が閉じられているとしたら、鼻メガホンの存在は否定されることになる。

でも、僕はこの通説こそが間違っている、と考えている。せっかく人間には鼻腔という共鳴管が与えられているのに、それを頭ごなしに「使うな」というほうがおかしいのだ。むしろ、「使えるものは上手に使え」というほうがよほど理にかなっている。それに、英語圏では実際使ってるんだもんね。

ネットを見ていると、英米人の間でも、たとえば歌うときに鼻に息が通るのはよいか悪いか、といった論争があるようだ。「鼻声は絶対によくないので鼻に息を通してはいけない」、「いや鼻も響かせたほうがよくて、鼻声に聞こえるのは鼻と口その他の共鳴のバランスが悪いからだ」などとやり合っている(当然僕は後者のほうが正しいと思う)。ただ、一般に英米人のしゃべる声を聞いてみる限り、彼らが日本人よりずっと鼻の響きを多用していることは明らかだ。きっと英米人の中にも、それと意識せずに鼻を共鳴させている人が多いんだろうと想像される。実際、露骨には鼻声に聞こえない程度ながらも、かなりしっかりと鼻腔を響かせている人が大半だ。

これはなかなか大事なポイントである。鼻を共鳴させていることは、おおっぴらにしすぎないほうがかっこいいのだ。鼻声というのは日本でもネガティブな意味で使われるが、英語圏でもnasal voiceはよくないとされる。ただし、安易にnasal voiceはバツ、とも言い切れない。まったく鼻の響きを排除してしまったら、それもバツとなるに違いないのだ。要するに、聞いた感じがよろしくないnasal voiceはバツ、聞きやすいものはマル、と思えばいい。

口メガホンと同期させながら、いろいろ工夫してさりげなく鼻メガホンの共鳴を加えるようにすれば、自然に響きが豊かになるので違和感が少ないし、聞き手の好感も得やすい。逆にそうした許容範囲内であれば、めいっぱい鼻メガホンを使ったほうがいいのだ。だってそのほうが格段によく声が響くから。(歌ってみるとその差は歴然だ。)このさりげなさと露骨さのちょうどいいバランスを追求してほしい。でも練習のときなら、ちょっとやり過ぎるぐらいがいいかもね。

鼻メガホンだけを鳴らすだけなら、そうむずかしくはない。純粋な鼻メガホンの響きに近いハミングは、誰でもまがりなりにできる。ほんとうにむずかしいのは、鼻メガホンをしっかり響かせながら、同時に口メガホンを併用して母音や子音をクリアに発音することなのだ。鼻メガホンが効いていても母音や子音がきれいに響かなければ、「鼻声」だとやゆされることになる。

日本語の場合は逆に鼻メガホンの響きがほとんどないため、子音や母音ははっきり出せても、響きが平べったくなって損することが多い。

さて、ここでちょっと前回やったことを思い出してほしい。窓ガラスを息で曇らせる、というやつだ。ただし前向きではなく、口蓋の奥の天窓に向けてハーッと吹きかける。この要領で上向きに出す「ハ」を「ハ’」と表記したが、この「ハ’」を発音するとき、鼻腔にはどの程度息が入っているだろうか。

それを簡単にチェックする方法がある。鼻をつまみながら発音してみるのだ。

鼻をつまんだまま「ハ’」を出してみると、鼻先がやや膨らむので、鼻孔の先近くまで息が来ているのがわかる。でもそこで行き止まりなので、逃げ場を失った鼻腔内の息は、口腔にオーバーフローする。

そのオーバーフローした息がどう流れるかを、しっかりと自分でトレースしてみてほしい。僕がやってみた結果では、オーバーフローした息は口腔のいちばん奥に戻され、そこから左右に分かれて頬の内側を伝い、口の左右から前に出て行く。つまんでいた鼻を開放しても、「ハ’」というときのこの息の流れは変わらない。

これは日本人の常識では考えられないような経路だが、鼻メガホンをめいっぱい使うとき、口メガホンのほうではこのオーバーフローした息だけが使われる感じなのである。これは今まで誰も教えてくれなかったコツだが、英語を発音するときはめちゃめちゃ重宝する。うそのように発音のクオリティが変わるのだ。

以前thの発音のヒケツとして、舌先の中央から前にthを押し出すのではなく、むしろ舌の左右に息を流すようにするとよい、と説明したことを覚えておいでだろうか? これがなぜ有効かというと、鼻腔に入りきらずにオーバーフローした息が口腔の左右からリリースされる、という英語的な息の流れにかなっているからなのだ。舌の左右を使うthは、この「ハ’」の息の流れに自然に乗るのできれいに響くのである。また、「lやrは舌の左右を使って発音する」と僕が説いたのもこれと符号する。口腔内の息の流れは、口の真ん中ではなくステレオ状に左右を通るのが英語本来の形なのだ。

日本語の「ハ」は、のどの奥のほうから開いた口の中央に向かって息を出す感じだが、「ハ’」では息がまず真上方向に上昇して鼻腔に向かう。のどから口蓋に向かって、息が常に太い柱のように吹き上げている感じだ。そのあと息の一部は鼻腔を通って出て行くが、一部は鼻腔に入りきらず、オーバーフローして口腔に押し戻される。そして、噴水のように吹き上げ続けている息の柱の脇を回り込むように左右の頬を伝いながら、最後に口から前へ出て行く。

この「ハ’」の息では、なによりもまず鼻メガホンを鳴らすことに重点が置かれている。そして口メガホンを鳴らす息は、あくまで脇役である。間接照明のように鼻腔からオーバーフローした後、えらく遠回りをしながら口の左右から出てくるのだ。これまでの「ハ」の単純明快な息の出し方に比べると、「ハ’」の息の流れはかなり複雑に見えるが、それでいて全体としての音の響きは「ハ」よりもはるかに豊かで聞きやすい。

要するに、核となる声の響きを鼻メガホンで作り、これに母音や子音の響きを口メガホンで付け加えるのだ。この種の分業体制が英語的な声の基本構成であることは、以前にもちょっと触れたかと思う。そのほかにも、頭蓋骨の上あごより上だけを使うことや、下あご以下は完全に脱力すること、前から風を受けて左右に翼を広げるようなハミング、発声と発音の分離など、有効と思われるイメージをこれまでいろいろと紹介してきたが、鼻メガホンというコンセプトを足がかりに、ようやくそれらを有機的に結びつける再現性のあるテクニックがはっきりと見えてきた。

この鼻メガホン系の息の出し方は、従来の日本語の息の出し方とまったく異なっている。

日本語の息を水泳にたとえるなら、のどから口へ向かって1人のスイマーが平泳ぎでまっすぐ水平に進む、というシンプルな図式だろう。

これに対し鼻メガホン系の息では、まず3人1組のスイマーがのどから口蓋に向かって垂直に伸び上がるように泳ぐ。そして主役を務める中央の1人が、口蓋帆の裏からバタフライのように前方へダイブして鼻腔に入り、鼻メガホンを響かせる。

脇を固める2人は、口蓋の直前でのけぞりながら後ろ向きにダイブしたあと、背泳のターンの要領でくるりと前方に向きを変え、さらに後続の3人1組のスイマーたちを邪魔しないよう左右二手に分かれて、クロールで口の左右に向かう。そして最終的には3人のスイマーが再びきれいにそろって前に出てくるのだ。

全般にアクロバット的でダイナミックな息の流れである。競泳というよりはシンクロナイズドスイミングに近いかもしれない。いくつかの泳法が複合しているが、究極のフリースタイルともいえるだろう。

このシンクロ風のルーティーンというか一連の息の流れは、これから何度も引き合いに出すことになるので、何かひと言でうまく表現する必要がある。そこで考えた末に、これを「国井モデル」と名付けることにした。

「国井モデル」:鼻腔と口腔を通る2つの息の流れを複合的に誘導することにより、豊かな響きを鼻メガホンで作りながら、同時に母音と子音を口メガホンでクリアに形成する発声・発音モデル。日本人の英語発音を一変させるのみならず、日本語の音声表現をもより豊かにする可能性を秘めている。

次回はこのモデルについて、さらに考察する。

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な お、このブログで公開しているメソッドは僕が苦心してたどりついた知的財産なので、無断借用はしないようお願いしたい(もちろん個人で発音改善などに利用 される分には大いに歓迎するが)。以前僕が別のブログで音読について綴ったことを黙って本に盗用した人がいて、遺憾に思ったのでひと言。