英語でthが好んで使われるワケ

日本人が特に苦手とする英語の子音といえば、th、f、v、l、rなどがすぐ頭に浮かぶが、中でも特に重要なのがthである。というのは、この音は英語では実にひんぱんに使われるからだ。

thの音を含む単語には、基本中の基本といってもいいようなものがずらりと並んでいる。たとえば中学生が習う基本的な単語には、the、this、that、these、those、they(their/them)、with、thanなど、thが含まれているものがやたらと多い。英語初心者がいきなりこんなへんてこな音に遭遇させられるのだからたまったものではないが、まあそれが現実だから仕方がない。このほか、month、together、father、mother、brother、other、either、both、thing、thank、think、throw、thirsty、thought、through、though、three、thirtieth、thousand、Thursday、birthday、mouth、tooth、earthなど、thを含むものは中学生レベルでも枚挙にいとまがない。

こうした基本的な重要単語にthが数多く使われているのは、いったいなぜだろうか。日本人には想像もできないことだが、おそらく英語を話す人にとってはthの響きがとても心地よいからだ、としか考えられない。でなければ、これほどthを多用するはずがないのだ。それは裏を返せば、正しい英語のthは本来とても心地よい音でなければならない、ということを意味する。正しく発音すれば、thはきわめて美しい音なのだ、きっと。だから、英語を習得しようとする僕たちは、このいやというほど出てくるthがもっと愛すべき音に聞こえるよう、精一杯努力しなければならないのである。そして、今まで習ってきたthの発音のどこが間違っていたかを理解し、正しくthが発音できるようになれば、ほかの音も自然とうまく発音できるようになるに違いない。

さて、thはあまりに使用頻度が高いので、極端にいうと英語という言葉はthがなければなりたたないほどだ。たとえばキング牧師の有名な演説”I Have A Dream”を見てみると、thを含む単語は全1652ワード中216ワード、つまり約13%に達する。オバマ大統領の2013年就任演説の場合は、2135ワード中281ワード(13%)、ケネディ大統領の就任演説は1382ワード中180(13%)、リンカーン大統領のゲティスバーグ演説は268ワード中44(16%)、アメリカ独立宣言は1322ワード中189(14%)などとなっている。つまり、少なくとも8語に1語はthの音が出てくる計算なのだ(国井調べ)。

英語と同様のthの音を持つ言語は、世界的にも少ないといわれている。その意味でもthは英語を特徴づけるユニークな音と考えてよいだろう。

英語を話す国の人々は、物心ついたころから死ぬまでずっとこのthの音とひんぱんに接しているので、thはそれこそ嫌と言うほど何度も発音している。しかも、英語という言語は歴史をたどれば何十世代にもわたって語り伝えられてきているので、thの発音にも年季が入ってる。つまり彼らは、なるべく無駄なエネルギーを使わずしかもきれいにthを発音するやり方を、長い年月をかけて習得し、発展させてきたのだ。

thがそれほど英語に不可欠かつ特徴的な音であるとすれば、その発音は英語の他の子音や母音の発音にも少なからず影響を与えてきたに違いない。そうしたthの発音の特徴を解析すれば、これまで気づかなかった英語の発音全般の特性を解明するカギも見つかるはずだ。

さて、thの発音を練習する準備として、mのハミングで発声を復習しておこう。前にも述べたとおり、決して真正面に矢のように飛び出す鋭いmにはしないこと。むしろ顔の前にある空気を取り込みながらmを創るイメージだ。そしてこのmが、左右に面状に広がっていく。顔の左右に空気の翼を広げ、それをmのハミングで支える感じである。さらに両耳も思い切り広げるように意識して、揚力を付加するとよい。

ジャンプにたとえるなら、板を揃えて弾丸のようにひたすら前に飛び出していくクラシックジャンプではなく、むしろ板をなるべく開き、風を受けて揚力を得るV字ジャンプのような感覚だ。もっというなら、V字よりさらに左右に広く翼を広げて、ムササビか、フライングスーツを着た人のような…、いや、どうせならもっと欲張って、動力を使わなくてもいつまでも滑空できる高性能グライダーのようなイメージを目指したい。同時に、声を出すポジションはなるべく高く保つことも意識しておこう。下あごより低い部分はすべて脱力する。上あごより上の頭蓋骨は、声の翼が生み出す揚力でふわりと持ち上がったまま浮遊するような感覚になる。

mの次は、nでもやっておこう。mと違うのは、舌で口蓋をふさぎながら唇を開くことだけ。その他の発声の要領はほぼmと同じだ。

mもnも、高いポジションで発声していれば口から発せられる声の要素はほとんどない。けれども、決して鼻声ではない。声を呼び込んで左右に翼のように開くことを意識すれば、声は自然と鼻以外の出口も探し出して、伸び伸びと広がってくれる。逆に、声を正面から出そうと力めば力むほど鼻声になる。息のベクトルが前向きではなく、左右の後方を向くように意識することが、うまく声の揚力を得るポイントだ。

これでmとnのハミングがより安定した音になる。子音をクリアに発音するための準備は整った。
次回はthの発音メカニズムに的を絞って話を続ける。

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