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「国井モデル」と子音の発音

国井モデルは、声の成分別にみるなら、次の3種の音を合成するテクニックといってもよい。すなわち、(1)鼻メガホンで響かせる基本音声、(2)母音、そして(3)子音の3つである。 国井モデルでもっとも重視するのが(1)の鼻メガホンで鳴らす基本音声だ。この成分こそが、豊かな声の響きの核となるからである。鼻メガホンは声を出している間中、常にきれいに鳴らし続けておく必要がある。したがって、鼻メガホンに向かう息の流れをできるだけ妨げないようにすることが、国井モデルの基本となる。 ハミングだけ練習しているときにはそれほど面倒は起きないのだが、これに母音や子音をつけようとすると、とたんにいろんな障害が出てくる。鼻メガホンへの息の流れが途切れたり、歪んだりし始めるのだ。だから、これを回避するための特殊なテクニックが必要になってくる。 母音の作り方については、すでに前回そうしたテクニックについて述べたので、今回は子音の作り方に的を絞って解説を続けよう。 子音を発音する際に、僕たちはつい口の中心に子音のエネルギーを集めようとしがちになる。しかし英語に関する限り、実はそれがまさに一番やってはいけないことなのである。 このことは、英語を教えたり指導したりする立場にある人の間では、残念ながらほとんど認識されていない。だから学習者の皆さんが知らないのも無理はない。だって教わっていないんだもの。裏を返すと、学習者の皆さんがこの点にさえ気をつけて練習すれば、かなり短時間で別次元の発音クオリティを手に入れることができるはずだ。 僕は以前にもthやl、rなどの子音をうまく発音するヒケツとして、舌の中心から子音を押し出すのではなく、舌の左右を通る息で子音を作るとよい、ということを指摘した。国井モデルの考え方に照らしてみると、これはきわめて理にかなっている。 国井モデルでは、息の本流は鼻メガホンを鳴らす方向に向かうので、口の奥では垂直に伸びる息の柱が噴水のように常にわき上がり、口蓋垂の後ろへ流れ込んでいる。そして、この息の柱を邪魔しないように、後ろからもう1つの息の流れが左右に分かれて口メガホンに入り、ステレオ状の2本の支流となって頬の内側を伝いながら前へ向かう。この息の支流が、声に母音や子音の響きを付け加えるのだ。 これに対し、一般的な日本語の発声・発音モデル(カナ縛りモデル)では、息の流れはのどの奥から、開いた口の中心に向かって一直線に伸び、声も母音も子音もぜんぶ一緒になって口メガホンから出てくる。つまり、機能別に分化されていないオールインワン状態である。また、鼻メガホンの響きはほとんど利用されることがない。 ほとんどの日本人はこのカナ縛りモデルでしか声を出したことがないので、英語をしゃべろうとするときも当然このモデルで声を出そうとする。この状態では、はっきり発音しようとすればするほど息のエネルギーが口の中央に集まってしまうので、鼻メガホンの響きがない浅い声になるだけでなく、母音や子音も広がりのない平坦な音に聞こえてしまう。 これに対し、国井モデルではまず、息の流れを交通整理する。優先レーンは鼻メガホンに向かう垂直の流れ。そして、後ろからこれを迂回しながら前へ向かう口メガホンの息の流れが左右2本付け加わる。それによって、母音と子音が形成される。この図式をよく頭に入れて発音するよう心がけるとよい。 とくに子音については、あるコツを覚えておくとかなりうまく発音できる。 そのコツとは、「奥歯を意識すること」である。 いちばん奥の歯は、上下左右に4本ある。まず口を軽く開けて、顔の右半分を意識しよう。そして、右側の上下の奥歯が円柱のようなものでつながっている様子をイメージする。同様に、左の上下の奥歯についても円柱でつながっているさまを思い描く。この2本の円柱に挟まれたエリアは、息が鼻メガホンに向かって垂直に上っていく優先レーンの領域だと思ってほしい。つまりこの領域は、口メガホンの息に関しては常に遮断機が下りて通せんぼ状態になっていなければいけないのだ。(ここがカナ縛りモデルと国井モデルの最大の違いでもある。) ということは、国井モデルで口メガホンを鳴らすには、左右の奥歯よりもさらに右および左に息を通すことが求められる。 言い換えると、奥歯と頬のあいだの空間を吹き口として、左右の頬の内側伝いに息の通り道を設けることが、国井モデルで口メガホンを鳴らす方法、ということになる。 特に子音については、息を左右の奥歯のさらに右および左から回り込ませるような位置を起点にすると、かなりうまくいく。こうすることで、子音の息は左右の頬の内側を伝って進み、唇の左右からステレオ状に出て行く。th、l、rの発音のコツとして述べた「舌の左右を意識する」というのは、この頬の内側を流れる息を使うことにも通じるのだ。 今まで僕たちの考えてきた子音の息の出し方とあまりにかけ離れているので、最初はみんな戸惑うだろう。でも、この戸惑いのフェーズさえ乗り越えてしまえば、実は国井モデルの子音のほうがずっと楽に出せて、しかも明瞭に聞こえる。左右の奥歯の外側から頬伝いにステレオ状に息を送ることで、英語特有の切れのあるシャープな子音が生まれるからだ。th、l、rはもちろん、s、z、f、v、wなども、これまでとはまったく別次元の音になる。 s、z、f、v、wなどの子音を発音するとき、皆さんの意識は前歯や唇の中央付近に集中していないだろうか? 僕は長い間ずっとそう思って発音してきたし、そのやり方での発音クオリティが特別いいわけではないけれど、まあ通じるレベルだからそんなものだろうと思って、それ以上あまり考えずにいた。なので、これが間違いだと気づくまでには気の遠くなるくらい長い時間がかかってしまった。皆さんには同じ間違いをくり返して欲しくない。 最終的には確かに前歯の付近で摩擦音やら何やらが出ることになるのだろうが、それはあくまで現象的な説明に過ぎない。音声学ならそこで思考停止してもいいのかもしれないが、発音を実践する上ではさらに一歩も二歩も踏み込む必要がある。発音や発声のテクニックは、単なる現象の記述とはまったく別ものだからだ。 現象どおりに前歯や唇の中央付近で発音しようとしても、なぜかうまくいかない。ところが、奥歯の後ろから両頬に回り込むように子音の息を発してみると、左右から前に進んできたステレオの息が最終的には前歯の付近で合流し、立派な子音になる。つまり、子音の出発点として意識する場所を左右の奥歯の後ろあたりにシフトすることで、不思議にも前歯付近から出る音がより明瞭化するのだ。 カナ縛りモデルと国井モデルのこうした構造的な違いを意識しないかぎり、いくら英語らしい発音をしようとしても徒労に終わるだろう。それは、これまでの英語教育がいやと言うほど実証してきたとおりだ。逆に、国井モデルへの切り替えさえできれば、英語的な発音が面白いほど簡単に身につくはずである。 しかも、国井モデルは日本語の発音にも応用でき、未来の日本語音声のクオリティを高める役目も果たす。ぜひ活用していただきたい。 英語音読 な お、このブログで公開しているメソッドは僕が苦心してたどりついた知的財産なので、無断借用はしないようお願いしたい(もちろん個人で発音改善などに利用 される分には大いに歓迎するが)。以前僕が別のブログで音読について綴ったことを黙って本に盗用した人がいて、遺憾に思ったのでひと言。

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