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声帯を直視して範となすべし

最近では、声帯が動く様子をファイバースコープで観察したビデオがYoutubeなどで簡単に見られるようになった。 それをいくつも見ているうちに、ふと気づいたことがある。 声帯そのものよりも、そのやや上にある「披裂喉頭蓋ひだ」のほうが、はるかに活発に動いている、という点だ。 百聞は一見に如かず。いくつかビデオを見てほしい。(イントロとかはすっとばしてファイバースコープ映像にジャンプして構わない。) 最初のグループはこの3つだ。 https://www.youtube.com/watch?v=y2okeYVclQo https://www.youtube.com/watch?v=0Esjrpw9T0c https://www.youtube.com/watch?v=Qq3IpTbHzds 次に別のグループ。 https://www.youtube.com/watch?v=phBjL_BT5Zc https://www.youtube.com/watch?v=xcvedsSCz5s https://www.youtube.com/watch?v=Y9eJ18Peq0w 2本の白い筋のように見えるのが声帯で、その上に唇のようにかぶさって忙しく動いているのが披裂喉頭蓋ひだである。 ところで、最初のグループと次のグループでは明らかに披裂喉頭蓋ひだの出っ張り具合に差があるのにお気づきだろうか。 後のグループのほうは、声を出したときにほとんど声帯が隠れてしまうくらい披裂喉頭蓋ひだが出張っている。これに比べ、最初のグループでは左右のひだの付け根あたりがくっつく程度で、声帯はかなり露出したままだ。 お気づきのとおり、最初のグループは西洋人、後者は日本人である。 以前も指摘したが、おそらくこの披裂喉頭蓋ひだの出っ張り具合の違いが、日本人の「のど声」と西洋人の「頭声」の違いを生んでいると考えられる。(国井オリジナル仮説) 写真で例示すると、Aが無声時、Bが西洋人の発声時、Cが日本人の発声時だ。ま、ちょっと極端かもしれないけど、パターンとしてわかりやすいものを選んでみた。   A   B   C ちなみに方向的には、写真の下側が首の前方にあたる。下唇のように見える部分は喉頭蓋。上唇のように見えるのは披裂喉頭蓋ひだ。発声時の披裂喉頭蓋ひだの閉じ具合は、ほぼ上のビデオで見たパターンを反映している。日本人は、発声時に声帯を覆い隠す度合いがきわめて大きいのである。そして、この声帯を覆い隠してしまうという点が、日本人ののど声が持つ最大のウィークポイントなのだ。声帯を覆うというのは、声帯に弱音器かサイレンサーを付けるようなものである。だから洋風の発声に比べるとボリュームが弱く、声は遠くに届かず、また音程その他のコントロールも甘くなってしまうのである。 先日、大阪大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科のホームページ(http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/ent/r_dysphonia.html)でこれに関連する記述を目にした。 『喉頭においては声門のみではなく声門上部もまた閉鎖します。声門上部とは解剖学的には仮声帯と披裂喉頭蓋括約部のことであり、声門上部の閉鎖が強くなるほど見かけの声帯の面積が小さくなります』 「披裂喉頭蓋括約部」というのは、左右の披裂喉頭蓋ひだが中央で交わる部分に相当する。ここがきゅっと絞られるように閉じる(すなわち括約する)動きを見せるからだ。(「仮声帯」というのは、白い声帯の両脇に見える部分だが、上に挙げたビデオには仮声帯が盛り上がって声帯を覆っている例はない(心因性仮声帯発声という症状の場合にその現象が発生するらしいが)。ここでは、声門上部閉鎖は実質的に披裂喉頭蓋ひだの閉鎖を指すと考えておこう) 同ホームページの記述によれば、この声門上部が閉鎖するという現象には程度の差があって、閉鎖が強いと「喉詰め発声」になるという。つまり「のど声」だ。 「声門上部の閉鎖が強くなるほど見かけの声帯の面積が小さくなる」、というのも、上のビデオや写真で示したとおりだ。のど声だと声門上部が閉鎖するので、声帯が覆い隠されてしまうのである。 阪大のこの科では、閉鎖の度合いについても研究しているとのことなので、日本人と西洋人を比較してデータをとれば、のど声のメカニズムを裏付ける重要な資料になるのではと期待される。 それはさておき、僕は披裂喉頭蓋ひだの映像を見ていて、もう1つ気になったことがある。 ひだの動きをリードしているように思える肉球みたいなものが、左右2つずつ見える、という点だ。 で、調べてみると、これは小角結節と楔状結節と呼ばれるらしい。 下図の09と08だ。(この図は上の写真と比べると上下さかさまなので注意。) http://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/spalteholz/J742.html さらに調べてみると、小角結節の内部は小角軟骨と呼ばれる軟骨で、これは披裂軟骨(声帯の開け閉めを受け持つ軟骨)の上端にある突起だ。 楔状結節の内部には楔状軟骨があるが、これはちょっと異端児らしく、披裂軟骨にも他のどの骨にもつながっていない。 楔状軟骨については、以下のサイトにWillard R. Zemlinという音声学者からの引用としてこう書かれている。「楔状〈くさびじょう〉軟骨は、喉頭の枠組み内にある喉頭軟骨の中で、小角軟骨(corniculate cartilages)とともに最も小さい軟骨で、発声にもほとんどかかわりのない軟骨です)」 http://the-vocal.com/term/%E6%A5%94%E7%8A%B6%E8%BB%9F%E9%AA%A8/ ちょっと待った。 楔状結節の動きをビデオでみる限り、日本人は結構この部分を使って声帯を覆い隠しているように見える。としたら、ほんとうに「発声にもほとんどかかわりのない軟骨」と言い切っていいんだろうか? たぶんこの筆者Zemlin氏がそう言い切ったのは、彼が西洋人だからだ、と僕は推測する。頭声ベースでしゃべる西洋人にとっては、この楔状結節を使ってわざわざ声帯を覆い隠すなんてナンセンスだからだ。 ところが僕たち日本人は、楔状結節もしっかり使って発声している。それがのど声というものなのだ。(西洋の声楽的観点からはマイナスでしかないけどね) もう1つビデオから感じたことがある。 声帯が閉じるときには、必ずと言っていいほど左右の小角結節がくっつき合う、という点だ。これは西洋人も日本人も変わらないようだ。Wikipediaの声帯の項に出てくる図では、発声時も小角結節は離れたままで、披裂喉頭蓋ひだは開ききっているように描かれているが、少なくともその図は事実と異なるように思う。  無声時  発声時マユツバ図(小角結節の位置が…) 発声時には、少なくとも左右の小角結節は閉じるように動く、と仮に結論付けておこう。 さて、日本人が披裂喉頭蓋ひだを出っ張らせるときには、洋風の発声時と違うどんなメカニズムが働いているのだろうか? 2つ考えられる。1つは、小角結節が閉じると同時に、小角結節自体が声帯を覆い隠すような方向へ移動する、というもの。もう1つは、小角結節とは別に楔状結節が披裂喉頭蓋ひだをリードして動き、声帯を覆い隠そうとする、というものだ。もしかしたらその両方かもしれない。 いずれにせよ、のど声を生む元凶は小角結節か楔状結節、ないしその両方、と仮定するのが妥当だろう。 そこで、頭声を目指す僕としては、小角結節や楔状結節をピンポイントでコントロールすることを目標に据えようと考えた。 ここからは大胆な推測になる。 僕が提唱してきた「鼻腔弁」による声帯のコントロールは、この小角結節や楔状結節のコントロールに関連付けられるのではないか、というアイデアである。 僕が鼻の奥に仮想的に位置すると考えている鼻腔弁は、実は声帯だけではなく披裂喉頭蓋ひだの括約部をもコントロールしているのではないだろうか。 あるいは、「鼻腔弁=披裂喉頭蓋ひだ括約部」なのかもしれない。 (その場合、仮想上の声帯は鼻腔弁よりもさらに奥にあることになる。ただ、披裂喉頭蓋ひだの括約部と声帯は披裂軟骨を介してつながっているので、鼻腔弁で声帯をコントロールすると、いう基本的な考え方を大きく見直す必要はない) ちょっと図解してみた。Aが無声時、Bが西洋人の発声時、Cが日本人の発声時である。      赤で示したのが披裂喉頭蓋ひだ。ちょっとわかりにくいかもしれないが、ひだの途中に小さな白マルで小角結節と楔状結節を示している。 緑の矢印は、小角結節と楔状結節に働く力の向きを示している(無声時、洋風発声時、和風発声時に該当)。 僕たち日本語ネイティブスピーカーが日本語を話すときは、意識的に操作しない限りデフォルトでCののど声状態になる。僕が「カナ縛り」と命名した標準的な日本語発声モデルだ。 僕が目指すのは、発声時にCではなくBのような形を作ることだ。 これまで僕は鼻腔弁を狭める動きを練習してきたが、今回は「鼻腔弁=披裂喉頭蓋ひだ括約部」と仮定した上で、鼻腔弁を完全に閉じようと意識してみた。同時に、鼻腔弁を息が通る際に振動が起きて声になる、というこれまでのイメージを修正して、鼻腔弁のやや後方で振動が起き、それが閉じた鼻腔弁の下の開口部を通って出ていく、というイメージに変えてみた。 つまり、前回の鼻腔弁の図に上のBのイメージを重ね合わせてみたのだ。 頭の中にBの図を思い描く。そして、鼻腔弁を閉じる動きに合わせて、披裂喉頭蓋ひだの中央部が閉じるさまをイメージするのだ。 このとき、披裂喉頭蓋ひだが不用意に降りてきてCのようにならないよう注意する。声帯がなるべく隠れないようにしたいからだ。 これは何を試しているかというと、披裂喉頭蓋ひだを鼻腔弁の位置にマッピングしているのである。 さらに、披裂喉頭蓋ひだの中の、小角結節と楔状結節の位置も鼻腔弁にマッピングしてみる。そして、鼻腔弁のコントロールを使って小角結節と楔状結節のコントロールを試みるのだ。 試した結果は? 驚いたことに、小気味よいほどうまくいく。鼻腔弁がイメージしやすくなり、声帯のコントロールがストレスなくできるのだ。 これってひょっとしたら世紀の大発見になるかも? なんて妄想をつい抱いてしまった。 小角結節と楔状結節のコントロールについてはまだまだできることがありそうなので、さらに実験を重ねようと思っている。 なお、このブログで公開しているメソッドは僕が苦心してたどりついた知的財産なので、無断借用はしないでほしい。個人で発音改善などに利用される分には大いに歓迎するが、人に紹介していただく際には必ず、国井のアイデアだと言及するようようお願いしたい。(以前僕が別のブログで音読について綴ったことを本に盗用した人がいて、遺憾に思ったのでひと言。)

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